2009年 9月 17日

あっしは江州阪田の郡…

 もうひと月近く前に出た単行本だから、新刊コーナーからは移動されてしまっているかもしれないが、原作:長谷川伸/脚色・構成・作画:小林まこと『関の弥太ッペ』(講談社)が出た。
 今年の初めぐらいだかに、『イブニング』で連載が始まったとき表紙を飾っていて、書店の棚でたまたま目にとまったのである。最近、名作文学の漫画化は増えてるけど、「長谷川伸」ときたか、人情股旅ものでタイトルが「関の弥太ッペ」、どこに需要があるんだと思わずにいられないが、初回はとても丁寧に描かれているのがわかった。3~4回目まで立ち読みで追っかけたが、まったくダレなかった(失礼ながら、小林まことは「手をぬく人」のイメージがあるので)。
 今の40歳前後が、小林まとこの代表作『1・2の三四郎』や『柔道部物語』にはまった世代にあたるのだろうが、私自身はまったくだった。プロレスを見ない男子だったし。単行本を買ったこともなく、床屋や喫茶店に置いてあれば、時間つぶしに読むという程度の漫画家でしかなかった。
 なのに、『関の弥太ッペ』は買った。巻末に架空対談をこしらえていることからも、小林まことが長谷川伸の戯曲に入れ込んでいることがわかるが、客観的に見てもこの二人は相性がよい。他の漫画家が思いつかないぐらいよい。
 主人公の「関本の弥太郎」に『柔道部物語』の主人公・三五十五、というように、これまでの小林作品のキャラクターが『関の弥太ッペ』の登場人物を演じるという形をとっているのだが、
 「え~い、めんどくせえ!! 年三両の食いぶちで、むこう十年あずかってくれ!!」
といった威勢のよい啖呵というか、よせばいいのに勢いあまって言っちゃった感じのセリフが、小林の絵柄にはとても似合う。
 そうなると、時代がかったセリフ回しも新鮮。「てめえ、もう一度ぬかしてみろ、アゴのちょうつがいひっ外すぞ」なんていう言葉は、同時代の漫画家の頭からは出てこない。
 ストーリーの半ばほどで、特別ゲストとして、『1・2の三四郎』の主人公・東三四郎演じる番場の忠太郎が、関の弥太ッペとすれ違う。
 「あっしは江州(ごうしゅう)阪田の郡(こおり)番場という処の生まれの忠太郎と申します。」
 単行本巻末の予告広告によると、次の連載は「沓掛時次郎」に決まっており、「瞼の母」はまだその先のよう。楽しみに待ちます。

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