新撰 淡海木間攫

其の二十九 琵琶湖の泥について

琵琶湖の泥

 湖底に溜まった泥の下を更に掘ってゆくと何が出てくるか。また、琵琶湖が泥で埋まってしまうことはないのか。こういった質問に答えるための材料は幾つかある。既に先人達の努力により、多い場所では過去6300年間に12mの厚さで泥が溜まったこと、これを平均すると年間2mmの厚さで泥が溜まることなどが知られていた。しかしそれらは、湖底を掘り返して確かめたのではない。圧倒的な量で溜まっている泥の中に、「泥じゃないモノ(すなわち火山灰)」が埋没していれば、それは音波探査で見つけることができるので、今から6300年前に鹿児島南方から西日本一帯に飛来して琵琶湖にも堆積したアカホヤ火山灰を探すことで確かめたという。

 ここに紹介したのは、筆者が2年前に湖底を音波探査した結果の図である。上段地図中の白丸を結んだ線上を航行した。下段の断面図の白い部分は水深約 90mまでの水域である。湖底面を黒線で示したが、それより下側の灰色部分が、いわゆる泥の溜まっている部分である。水深が40mよりも深いところで、アカホヤ火山灰が約10m下に埋没しているという音波探査の結果だったので、それを黒塗りの下端として、それより上側に溜まった泥の部分を黒塗りで示した。琵琶湖のどこでもが年間2mmの厚さで泥が溜まっている訳ではなく場所によりけりであることが、この図から分かる。

 なお上の図は、筆者が琵琶湖の泥について分担執筆した『琵琶湖流域を読む 下』(サンライズ出版)にも登場したものであるが、深さが誇張して描いてあり、琵琶湖がこのように激しく窪んでいる訳ではない。では、読者に真の姿をイメージして頂くためにはどのような説明方法があるだろうか。また同書籍中で、「東京ドーム約2杯分の泥が毎年琵琶湖に溜まる」との説を紹介したが、この規模がどの程度のものかをイメージして頂くための説明方法はあるだろうか。

 「琵琶湖に畳が何枚敷けるか?」というなぞなぞがあるが、答えは約4億枚だ。琵琶湖と畳の大小関係はおよそ2万倍であるから、この縮尺で琵琶湖を畳に縮めてやると、「平均水深40m・貯水量275億t」は「水深2mm・貯水量3リットル」に縮んでしまう。そして畳の上に置いたボタン1個。それが東京ドームだ。琵琶湖は予想外に浅く平べったい。また毎年溜まる泥の量は、広さの割にあまり大した量ではないようだ、というように見ることもできる。

*図:アカホヤ火山灰層の探査航路(上)および層厚(下)

滋賀県琵琶湖研究所 主任研究員 横田喜一郎

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