新撰 淡海木間攫

新撰淡海木間攫 其の七十九 家訓「先義後利」 西川利右衛門

 近江八幡市文化観光課 烏野茂治

家訓「先義後利」 西川利右衛門

 現在近江商人の屋敷として公開している重要文化財旧西川家住宅は、西川利右衛門家の本宅です。同家は、畳表や蚊帳を扱った八幡商人のひとつで、江戸日本橋や大坂、京都などに出店を持ちました。現在、旧西川家住宅の床の間に1幅の掛軸が掛けられています。同家を本家とする大文字屋西川家一統に伝わる「先義後利」と呼ばれる家訓が記されています。
「先義後利者栄/好富而施其徳」
「義を先にし、利を後にするは栄え、好く富みて其の徳を施せ」と読み、その内容は(先ず利益を求めるのではなく)人として、道義をわきまえた行いをしていれば、利益は後からついてきて、栄える。よく富み、その富に見合った徳すなわち善行を(社会に)施せというものです。
家訓の前半部分は、中国の儒学者、荀子の言葉で、現在でも老舗と呼ばれる企業の経営方針として代々伝えられているところもいくつかあります。例えば、百貨店の老舗大丸は、初代当主である下村彦右衛門によって、元文元年(1736)よりこの言葉を事業の根本理念として定めています。
 一方、後半部分は漢詩などからの引用は確認できないことから、大文字屋一統によるオリジナルの文言ではないかと考えられます。その文面から「其の徳を施せ」といういわゆる社会貢献を謳う部分に目にいきがちではありますが、例えば日野の商人中井源左衛門の「金持一枚起請文」にある「始末と吝き」と同様、「好く富みて」部分も含め利益に対する支出や消費への理念も含まれていると考えられます。
 大文字屋一統では、奉公人が別家するとき、当主より「お墨付き」と呼ばれる支度金と家訓が書かれた掛軸を与えられます。「お墨付き」については、その後当主預かりとなり、別家には利息が与えられますが、掛軸は別家が大切に保管し、その理念は継承していくのです。

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