2013年 7月 15日

君はもう向こう側――徳永憲 デュエットwith小島麻由美「悲しみの君臨」

 先日、友人とのメールのやり取りで「好きなアイドル」というお題になり、歌謡曲の女性歌手(ないし男性歌手)に対して特に熱をあげた経験のない私は、しいて言えばというかたちで、小島麻由美の名をあげた。
 1995年の夏、デビューアルバムをCD売り場の新譜視聴コーナーで聴き、そのままレジへ。彼女はその時点で、すでに22歳だったのだし、知っている人には言わずもがなのことながら、アイドルではなくシンガーソングライターである。
 私が持っているシングルCD(3インチの縦長のやつ。マキシは別)は、彼女の4枚(「真夏の海」「はつ恋」「セシルカットブルース」「ろくでなし」)だけ。実際にはアルバムの方を通して聴くばかりで、購入後CDデッキに一度もかけたこともないものが混じっているはず。だとすれば、昨今のアイドルグループのファンと変わらない。
 そんな彼女もすでに40歳。6月16日(日)の夜、久しぶりにネットで彼女のオフィシャルサイトをのぞいてみると、かなり長いこと「新作を鋭意製作中です」のままだったトップ画面が更新されており、以下の文章あり。

   徳永憲のニューアルバム「ねじまき」に参加しました!
   徳永憲の大シンパ、小島麻由美が彼のニューアルバムに参加。
   「悲しみの君臨」で彼とデュエットしています。

 徳永憲とは何者?
 滋賀県彦根市出身のシンガーソングライター。
 デビュー15年、今年3月に発売された『ねじまき』(スザクミュージック)は8枚目のアルバムだという徳永憲、存じ上げませんでした。
 ただし、スピッツのトリビュート・アルバム『一期一会』(ドリーミュージック 2002年)収録の小島麻由美「夏の魔物」で、アコースティックギターを奏でているので、演奏だけならこの10年で何十回となく聴いていたことになる。
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 さて、最新アルバム『ねじまき』に収録されている二人のデュエット「悲しみの君臨」。
まずはyoutubeにアップされているミュージックビデオをどうぞ(ご自分で検索してください)。
 オフィシャルサイトで自身が書いているとおり(4月19日)、「歌詞がめちゃくちゃ暗い」。
 ちょうど、この5月、子猫の頃に妹夫婦が拾ってきたのを我が家で預かりそのまま10年以上飼っていた猫が、エサを食べず毛づくろいもできないほど衰弱したまま(GW中は毎日、犬猫病院へ点滴のため通院)、ある日、姿を消してしまった。それから間もない時期に聴いたために、気分が沈むこと甚だしい。
 ひと言でいえば、「諦念」の歌。10~20代ではなく、30~40代のための歌。猫ではなく人であてはまるシチュエーションだと、もっときつい。
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 徳永憲のこれまでの歩みについては、スザクミュージックのサイトにアップされている小野島大によるバイオグラフィを参照。
 彼の曲に対する「いびつ」という形容は、いくつもの評や彼自身の発言でなされていて、自分の頭に浮かんだものなのか、聴く前に頭に入っていた情報なのか、わからなくなってしまった(まぁ、たぶん後者)。
 例えば、5曲入りデビューミニアルバム『魂を救うだろう』の1曲目「ビルの屋上」の「柵には折り返しがある」という歌詞。
 最初のフルアルバム『アイヴィー』(1998年、ポニーキャニオン)の3曲目「優しいマペット」で、素朴なリコーダー(自身による演奏)の音色にかぶる言葉「君のことを台無しにしてやりたい」。
 6曲目の「口封じ」は意味深なタイトルの鼻歌ソング。
 7曲目の「コーラの秘密」は、歌い手に小島麻由美を想定して作られた曲だそうで、詞曲ともにそのパスティーシュ。歌詞も演奏もふざけている。
 ラストをかざる「アイヴィー」(ivy:英語で「つた」の意)は、アルバムタイトルにふさわしい佳曲。2~3分の小品だろうと思って聴いていると、バックのストリングスがそれこそ繁茂するつたのように過剰な盛り上がりをみせて、7分きっかりで終わる異形のナンバー。
 2ndアルバム『眠り込んだ冬』(2000年)は現在入手困難。
 3rd~6thも飛ばして、最高傑作の呼び声が高い7thアルバム『ただ可憐なもの』(2011年、スザクミュージック)を聴く。
 3曲目「神に麻酔を」は、一番ロック色が強いナンバーで、詞曲ともに直近のライブで競演しているカーネーションの直枝政広っぽい。間奏で入るアイリッシュ風フィドルとフルートが快感。
 10曲目「ボート」も長尺なれどリピート必至。youtubeにアップされているミュージックビデオには、ビバシティ彦根(JR南彦根駅前にあるショッピングセンター)の立体駐車場と屋上を撮影した映像が挿入されている。本人が年末年始の帰省時に撮影したものか。雪が積もっている。そう、1曲目「本屋の少女に」から、アルバムのイメージは冬なので、今は季節はずれなのだが、それは置いといて。
 「早く逃げようって彼女は言う」
 「このボートじゃ何処へも辿り着けない」
 滋賀県民には意味深にもとれる曲だな。

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