2016年 2月 14日

小島麻由美と3776を「聴く」理由があるとすれば

 年が明けてすでに1ヶ月以上たってしまい、いまさらな気がしないわけではないが、2015年はどんな年だったか振り返ってみる。ひとつ確実に言えるのは、小島麻由美デビュー20周年の年だった。
 7月に20周年記念盤として、1st~3rdアルバム(通称「セシル三部作」)と幻の4thアルバムをふくむ未発表音源を収録したCD4枚組『セシルの季節 La saison de Cécile 1995-1999』と、イスラエル・テルアビブで活動するサーフロックバンドBoom Pam(ブーム・パム)とのコラボレーションアルバム『with Boom pam』が同日発売。UHQCD仕様の前者はとにかく音がよい。カーオーディオでも違いがはっきりわかる(私はそもそも仕事帰りの車の中でしかCDを聴かない)。後者については後述。
 12月には、待ちに待ったカバー曲集『Cover Songs』が発売された。
 この3曲目「夜明けのスキャット(Live)」(2000年発売のライブアルバム『Songs For Gentlemen』収録)は、スカ風味のライブ録音のみが存在。2002年に私の結婚式披露宴でお色直し前の新郎新婦退場にBGMとして使わせてもらった。妻ですら覚えていなかったから書いておく。
 4曲目の「夏の魔物」は、2013年7月15日付けの当ブログ「君はもう向こう側」で書いたとおり、彦根出身の徳永憲がアコースティックギターを演奏。
 全16曲、うち12曲はトリビュートアルバムなどですでに聴いたことあるもの(TOKYO No.1 SOUL SETが女性シンガーをゲストに迎えた企画アルバム『全て光』収録の「Champion Lover」は収録されなかったのだな)。
 なので、聴きどころは、2011年録音で未発表だった10曲目の尾崎豊「I LOVE YOU」と11曲目の同じく尾崎豊「シェリー」。前者は、ピアノのコードがジャズっぽい不協和音で、より不穏かつアダルトな雰囲気。男性曲を女性が歌う点と性的な内容の歌詞から、ケイト・ブッシュがシングル「King of the Mountain」にカップリングで収録したマーヴィン・ゲイの「Sexual Healing」を思い出した(ちょうど今日、DVDをレンタルして観た映画、ジョン・ファヴロー監督・主演の『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』には、陽気なラテン風にアレンジされたこの曲がラジオから流れ、それにあわせて主人公と相棒が楽しげに合唱し、主人公の10歳の息子が顔を赤らめるというシーンがあったのでびっくり。評判どおりのよい映画)。
 後者は伴奏がリコーダーとトイピアノ。演奏と歌詞のミスマッチぶりがシュールの域。小島本人の編曲かと思ったら、佐藤清喜という人だということに驚く。
 このアルバム用の新録がラストの2曲。16曲目の「君の瞳に恋してる」は日本語訳歌詞が使えなかったそうで残念。
 最高なのは15曲目の「Hava Nagila(ハバナギラ)」。先にあげたイスラエルのサーフロックバンド、Boom Pamが来日した際に、小島の希望で収録されたヘブライ語民謡。日本でも、「マイムマイム」と並ぶフォークダンスの定番曲とのことだが、私は踊ったことなし。ベースがわりのチューバにかぶるエレキギターのかっこいいこと! 小細工なしの歌唱と演奏なのにポップかつ妖艶。
 この曲のプロデュースと編曲が、久保田麻琴。そう、2013年6月6日付けの当ブログ「ルーツと歌詞にマッチした名リミックス」で、その仕事『江州音頭 桜川百合子』リミックス集を紹介した、人呼んで「音の錬金術師」。アルバム『With Boom Pam』でもマスタリングを担当していて、私は2人の出会いを喜んだ。さらに、この新録がフォークダンスミュージック(日本でいえば「音頭」)ときた。「滋賀」とは関係ないが当ブログに書きとめておく。
 ちなみに、『With Boom Pam』のジャケットは、怪しげや本屋の店先で箱に雑然と詰め込まれた廉価本を物色する女性が描かれているビアズリーの『イエロー・ブック』趣意書表紙画(1894年)。本棚の上にある「BOOKS」の書き文字を「BOO」まででトリミングしてバンド名とかけてある。ビアズリーの選択は、代表作「サロメ」つながりなのだろう。
 2016年2月14日(本日)現在、googleで「小島麻由美 ビアズリー」と検索すると、一番頭にあがってくるのは、「オーブリー・ビアズリー文庫」というFacebookのページだ。大阪府内の個人がビアズリー情報を提供している私設ページのようで、昨年6月26日付けで『With Boom Pam』のCDジャケットを紹介している。
 見たなら、そこから下にスクロールしてみてください。
 2月7日付けで滋賀県立近代美術館(大津市)で開催している「ビアズリーと日本」展(2月6日~3月27日)の観覧記事が現れる。私も近いうちに行く予定。
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 もう、ひとネタ。
 そんなわけで、『Cover Songs』が2015年に購入する最後のCDになるかと思っていたら、立ち読みした「週刊文春」で近田春夫が20年ぶり(また20年)にラップの作詞をした曲が出たことを知り、ネットで検索。
 TeddyLoidのアルバム『SILENT PLANET』収録の「VIBRASKOOL feat. 近田春夫 (Professor Drugstore a.k.a. President BPM) & tofubeats」だということがわかる。
TeddyLoidさんは日本人の男性ミュージシャン(別名「リミックス王子」 wiki知識)が多彩なジャンルの人気ミュージシャンとコラボした2ndとのこと。1曲のみダウンロードで購入。250円なり。
 アマゾンで同アルバムページの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」欄に、ももいろクローバーZのあれこれ(TeddyLoidが公式リミックスアルバムを制作した関係)とともにあったのが、3776『3776を聴かない理由があるとすれば』。☆5つだったのでクリックしてみる。
 白と青に色分けされたCDジャケットと名前から想像されるとおり、3776(ミナナロ)は富士山(静岡県富士宮市)ご当地アイドル。現時点のメンバーは井出ちよの1名でソロユニット。プロデュースと楽曲提供は石田彰。
 カスタマーレビュー曰く、「コンセプトアルバムの傑作」「2015年アイドルアルバムのベスト」「2010年代の重要盤」……いずれも大絶賛。
 購入。アマゾンの購入記録によると12月16日のこと。
 先にも書いたとおり、かけたのは仕事帰りの車の中。運転しながらなので、曲名リストも歌詞も見ないまま。80年代ニューウェーブっぽいという評価どおり、打ち込み主体で、基本的にギターはメロディを奏でない(クライマックスの19曲目「3.11」をのぞき)。
 富士山を「彼」と擬人化して恋愛ソングにしたものもあるが、アルバム全体のコンセプトが「富士登山」なので、インターバルの語りも含め、観光案内的言葉が多い。なので、「あるかも」と思い始めた曲が、中盤にかかったところで登場。
 8曲目「日本全国どこでも富士山」。森高千里の「ロックンロール県庁所在地」の系譜に属する「○○づくし」もの(そんな系譜があるのか知らないが)。
 関東地方なら群馬県にある「榛名富士」というふうに、その山容から「○○富士」の名でも呼ばれる山が地方別に列挙されていく。北陸「越後富士」、さぁ次かと思ったら、中国地方の「伯耆(ほうき)富士」に飛ぶ。あれ……。九州・四国ときて、国内では最後に近畿地方「近江富士、別名三上山」(滋賀県野洲市)。
 「聴く」理由とするには弱いか。
 インターバルの語りもふくめ全20曲の中では、10曲目の「春がきた」が好き。
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 以下は余談だが、ネット上に類似の文章が見あたらないから書いてしまえ。
 一人でプロデュース・作詞・作曲・編曲を手がけた女性歌手のアルバムということで、私に思い出されるのは、近田春夫がつくった風見りつ子の『Kiss Of Fire(キッスオブファイヤー)』(1985年)だ。
 先のTeddyLoidのアルバムの特設サイトにあるプロダクションノートでは、近田春夫を「超オールドスクール」と評している。曲名「VIBRASKOOL」は、近田率いるヒップホップバンド「ビブラストーン」(1987年結成)に由来している(SKOOLの意味がわからなければ検索せよ。私もわからず検索した)。
 私は同じ「VIBRA」でも、さらにその前のニューウェーブバンド「ビブラトーンズ」に高校生の頃、ハマッた世代にあたる。ミニアルバム『Vibra-Rock(バイブラ・ロック)』とメンバーがバックと作詞・作曲を務めた平山みきのアルバム『鬼ヶ島』(ともに1982年)によってである。30年以上前、レコードの時代だ。
 大学進学で都会に出たらライブを見にいきたいと思っていたが、1984年、FMラジオから解散ライブだという演奏が流れてきた。翌年(1985)、4月に近田プロデュースによる風見りつ子の1st『キッスオブファイヤー』、5月に近田以外のメンバーが中心のバンド、PINK(ピンク)のバンド名と同じタイトルの1stアルバムが発売される。当然、私は両方買った。LPレコードを。レコードプレイヤーは居間に置かれていて、姉との共有物だったので、初めて聴くときにテープに録音してしまい、それぞれの部屋でラジカセで聴くことになる。
 いまも日本語ロック・ポップスの名盤に数えられる『鬼ヶ島』は、70年代歌謡曲の歌姫、平山みき(三紀)が、テクノにエスノにユーミンまでまぜたニューウェーブサウンドにのせ、ひねった設定(受験生の弟をもつ姉とか)の歌詞を歌った。
 一方、『キッスオブファイヤー』は、無名の新人歌手、風見りつ子に一聴、歌謡曲的な演奏・バックコーラスにのせ、「夜の大人の世界」をモチーフにした雰囲気重視の歌詞を歌わせたなかに、思いつくかぎりの音楽的な遊びをつめこんだ作品。
 対照的な2作だが、近田による企画先行なわけではなく、風見がビブラトーンズのファンで、『鬼ヶ島』収録曲を歌ったデモテープを近田に送り、その声質からアルバムコンセプトができあがった。
 さて、1980年代の終わりはレコードからCDへの移行期だった。レコードで所有していたものも、CD化されれば買いなおした。『Vibra Rock』は1stアルバムとセットで『ビブラトーンズFUN』としてCD化され(1988年)、『鬼ヶ島』もCD化される(1991年)。そのうち、『キッスオブファイヤー』もと思いつづけて幾星霜……。
 CD化されたのは、2013年10月24日。日本コロンビアのオンデマンドCDとしてだ。廃盤や在庫切れになったCDもしくは未CD化音源を1枚単位で受注生産するサービスで、2008年から始まっていたらしいが、知らなかった。そのラインナップに加わったのである。
 私はネット上でたまたま気づいて購入した。私のパソコンでアマゾンの『キッスオブファイヤー』のページを表示させると、上部に「お客様は、2013/12/30にこの商品を注文しました。」と表示される。その時の状況を忘れているわけだが、年末の夜で時間があったのだろう。思いついたものは何でも検索してみるものだ。
 3曲目「恋に溺れて」、4曲目「恋人達に明日はない」、5曲目「夜のすべて」の流れは、20年ほどぶりに聴いてもやはりよい。「恋に溺れて」の12インチミックスのような天井知らずの高揚感。「恋人達に明日はない」後半の間奏で、同じフレーズを延々くり返すキーボードと男性コーラスには「ライブかよ!」と突っ込みを入れて笑わずにはいられない(この曲は7分もある)。
 歌詞における頭韻と脚韻の多用や、曲やアレンジにおける過去のヒット曲からの“パクリ”は、ヒップホップに傾倒していた当時の近田ならでは。
 と、エラそうに書いたが、前段は、LPについていた「『精神』と『構造』」という物々しいタイトルの近田自身によるライナーノーツに書かれていることである。
 ありがたかったオンデマンドCDだが、ライナーノーツは、曲ごとの一言コメント部分のみが印刷され、その4倍ぐらいの長さがある「『精神』と『構造』」は割愛されている。このCDを買って、アマゾンなどにレビューを書く人は、その点で星ひとつマイナスしてください。

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