新撰 淡海木間攫

新撰淡海木間攫 其の六十三 「朝霧の川」中路融人

東近江市近江商人博物館学芸員 上平千恵

朝霧の川

 この絵は、湖国の原風景に心惹かれ、60余年もの間、その風景を追い求め、描き続けた日本画家・中路融人(文化功労者・日本芸術院会員)の作品です。
 その作品に向き合うと、画面からは不思議と肌寒い季節の凛とした空気や水辺の潤い、土や木々の匂いも感じるような気がします。

 東近江市の名誉市民でもある中路画伯の創作の原風景は、幼い頃、母に連れられて訪れた東近江市にありました。

 「大きな杉に囲まれた鎮守の森やコブナやモロコが釣れる曲がりくねった小川がたんぼの間を流れ、のどかな田園地帯が広がっていました」と当時を回想されています。

 今回ご紹介したこの絵のようなうねった小川や田園の中に榛の木が立ち並ぶ風景は、かつて滋賀県でよく見られましたが、県下では昭和50年代から急速に圃場整備がすすめられ、こういった風景が次々に消えていきました。

 その消えゆく風情を追いかけるように、何度も何度も湖国に足を運び、デッサンし続けたといいます。

 一枚の作品の創作をひもとくだけも、滋賀県の歩みの一端を顧みることができます。

 「水と木が私の創作の舞台装置だ」と語る中路画伯は、デッサンを大切にし、雪に輝く伊吹山や榛の木の立ち並ぶ田園風景、葦がゆれる琵琶湖畔など、自らが心ゆさぶられた一期一会の自然の表情を豊かに表現されています。

 このたび中路画伯から、長年にわたり制作された多数の日本画が東近江市に寄贈され、これらの作品を多くの人びとに鑑賞していただくために、平成28年4月17日に中路融人記念館をオープンすることになりました。

 日本画家・中路融人画伯が心惹かれた湖国の情景との出会いが、滋賀県の新たな魅力の発見につながるのではないかと期待しています。

●中路融人記念館開館 特別無料観覧会
 2016年4月16日㈯ 午後2時〜午後5時
 プレオープンとして、無料で入館していただけます。
●オープン記念展「中路融人の世界 ─湖国の風景に魅せられて─」
 2016年4月17日㈰〜7月24日㈰

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