インタビュー3 ディスカバリールームのリニューアルについて大人と子どものやりとりを増やす工夫をしています。 滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員 中村久美子さん

──どのようにリニューアル作業は進んだのですか。

中村 主が私で、副担当が妹尾裕介学芸員(考古学)、現場の嘱託の職員2人の4人でいろいろ相談しながらやりました。リニューアルした部分の言葉の表現や漢字などについては、小学校教諭の奥野知之さんに指導していただきました。

各種のディスカバリーボックス

各種のディスカバリーボックス

 ディスカバリールームはとてもリピーターの方が多い部屋で、開館当時の子ども世代が、いま親世代になりつつあります。そこで、事前に「お気に入りのコーナーはどこですか」というアンケートをしました。

 その結果、ザリガニは不動の人気で、「おばあちゃんの台所」も人気が高く、ほぼそのまま残しました。世界の楽器に触れる「音の部屋」も人気が高かったのですが、そのまま残すのが難しく、生き物が出す音のしくみのコーナーをつくり、楽器の一部はディスカバリーボックスに入れました。

──人気のあるものは残しつつ、新たなコーナーを考えたわけですね。

中村 次に対象年齢を決める議論をしました。類似の施設がある他の館を参照しながら、当館の場合、小学校1・2年生をメインのターゲットにしぼると決めました。実際は未就学の子の利用も多いので、それも無視しないという前提で。加えた一つ目は、五感を使える展示です。これまで手で触る、匂いを嗅ぐコーナーがなかったので。

 もう一つは、実物(剥製類)を増やしました。先ほどのアンケートとは別に、保護者を対象に聞き取り調査を行ったところ、「本物をたくさん見せてあげたい」という回答が多かったんですね。それは、こちらも考えていたことで、「ああ間違っていなかったんだな」と。これまではハンズオン(手で触れる)というコンセプトもあってレプリカが多かったのですが、子どもの目線にあえて本物の剥製を使いました。

子ども目線で穴をくぐると……

子ども目線で穴をくぐると……

──あそこのキツネなどは、怖がる子がいませんか。

中村 怖がってくぐれない子も、友達が通れば、キャーキャー言いながら最終的にはくぐってくれるものなんですね。上にいることに気づかず通って、「上を見て」って言ったら、「おおっ」て驚く子とか。

 特にあそこは見る人の背丈ごとに、テーブルの高さ、トンネルの中の高さ、車いすの通れる部分の高さなどを細かく検討しました。大人が抱っこしてあげないと、見えない位置にわざと置いた動物もいます。逆に足元に隠してある動物もいて、小さい子は足元をよく見ているので、お母さんに教えてあげてほしいなと思っています。そうした物理的な高さで結構工夫しています。

パネルは四角と丸の2種類

パネルは四角と丸の2種類

 ディスカバリールーム=「子どもの部屋」というイメージがあって、親は休憩しながら、子どもが楽しんでいるのを遠目に見るみたいな利用が多かったのですが、大人と子どもが一緒にコーナーを巡りながら、それぞれ「こんなのがあるよ」と教え合いっこしてもらう姿をめざしたつもりです。

 大人と子どものやりとりを増やすための工夫のもう一つは、丸い形のパネルと四角い形のパネルの2種類をつくったことです。丸い方がメインのパネルで、低めの子どもの目線に動作の指示が書いてあります。サブの四角いパネルに書いてある詳しい情報も子どもにわかるレベルで書いてありますが、大人が読んで子どもに耳打ちして、会話が生まれるようにと考えました。

──入口横の「みんなのたからもの」は?

入口横にある「たからもの」コーナー

入口横にある「たからもの」コーナー

中村 初めて展示室の外にコーナーをつくりました。外に行って自分の好きなものを探して、集めて、調べるという学芸員の仕事は、子どもの頃に公園や庭で気に入ったものを拾ってきて箱や缶の中にコレクションしたのと基本は変わりません。そこから学芸員という仕事を知ってもらう意味もあります。

 今の展示品は昨年11月に「森の宝物探し」という催しをやった時のもので、すべて屋外展示の敷地に落ちていたものです。参加者には、どうすごいのか自分の言葉で表現してカードに書いてもらいました。研究や展示では、自分の考えを書いて、見る人に伝える必要がありますから。
(2019.3.8)


編集後記
取材は3月上旬のまだ肌寒い時期でした。樹冠トレイルを取り囲む木々の緑はもっと増えているはずです。「おとなのディスカバリー」のいろいろな毛皮がさわれるコーナーにて、中村学芸員に「意外に気持ちいいのがヌートリアです」と教わり、さわってみると、なで始めた手が止まらない。日本では、戦時中に軍隊の防寒服用に養殖が始まったのだとか。(キ)


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