インタビュー1:滋賀県立美術館について 機動力を高めて、滋賀県にある多様な美を発信していきたい。

──滋賀との関わりからお教えください。

保坂 一つは「美の滋賀」という、2011年から嘉田由紀子前知事が提唱されていたプロジェクトに発信懇話会の委員として関わらせていただきました。その懇話会の下に部会が三つあり、そのうちのアール・ブリュット発信検討委員会では委員長を、もう一つの滋賀県立近代美術館機能・発信力強化委員会の委員にもなっていたので、三つの委員会にメンバーとして関わってきました。

 それとは別に、近江八幡にあるNO-MAとは、2006年に開催された「快走老人録」の展覧会評を雑誌に書いたことがきっかけで、2009年の「この世界とのつながりかた」以降、何回か展覧会の企画や監修で関わらせていただいていました。

 僕は、アール・ブリュットも専門の一つですし、建築の展覧会も一つの仕事にしていますし、近現代美術全般に関わるものも一つの仕事なので、いろんな立場で滋賀県とのつながりがあったということですね。

──新しい県立美術館を、どういう方向へ持っていこうとお考えですか。

保坂 一つは、これまであまり特性づけられていなかった、滋賀という地域ときちんと関わる美術館になること。これが一番大きなものですね。

 もう一つは、美術というものはいろんな多様性があるんだよという考えを広めること。美術というと、すごく洗練されたものであったり、評価が定まったものという印象がありますが、人がつくった優れたものであれば、それ以外のものに関しても扱っていけるような美術館になりたいと思っています。

 そのうちの一つとしてアール・ブリュットがあるだろうし、これまで美術には属さなかったものがいろいろあるはずです。
 それは、館の学芸員だけでやる必要はありません。新しく設けたラボというスペースは、立ち上げのさい成安造形大学にご協力いただきましたし、今後、いろんな人たちと一緒にやっていければよいと思っています。

 このラボやポップアップ・ギャラリーとを使って機動力を高め、多様な美というものをお見せできればと思っています。

──以前、県全域に広がるハブとしての機能を果たすとおっしゃっていましたが。

保坂 美術館から、県内のどこそこに何々がありますよと紹介することにも意味があります。館から車を使えば20〜30分で、湖南市の湖南三山のような国宝の建築物や重文の仏像が集中しているエリアに行けるのは、関東ではなかなかない環境だと思って、僕は驚きましたから。

 館がハブになって、そうした紹介を、パネルの展示でしてもよいし、バス会社と一緒になってツアーを企画してもよいと思います。

 美術館という名の下で活動しているから当然、人を招き入れるための施設、美術だけを扱っている施設と思われてしまいますが、そうではなくて、滋賀にある美や僕たちが見て優れていると感じたものを伝えていく場所、発信していく場所だと思っています。

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